魂の生命の領域

AWS とか Python とか本読んだ感想とか哲学とか書きます

LIMIT を読んだ

著者はドイツ人作家フランク・シェッツィング、原著が2009年で邦訳が2010年の近未来SF小説です。超大作。

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600P x 4の超大ボリューム。分厚い。

当たり前のように「自立」する

あらすじ

宇宙エレベータから月面基地、ヘリウム3採掘設備と核融合炉を成功させた巨大企業オルレイ・エンタプライジズのトップである世界一の富豪、ジュリアン・オルレイが、世界中から厳選したエグゼクティブを二週間の月面旅行に連れて行きます。

月面には月面ホテルがあり、いずれは民間人も宿泊できることを目指していますが、まずはプレオープン的な感じです。

一方、上海でサイバー犯罪を専門とする探偵のオーウェンジェリコが中国の反体制運動に関わっている娘が失踪したので探してくれ、という依頼を受けます。

また、カナダでは環境保護関連の取材をするジャーナリストのロレーナ・ケオワが、石油会社の幹部ジェラルド・パルスタインが暗殺未遂にあった事件を調査します。

読むまで

あとで説明するように13年来の積読、という性質を持つため、ここに至るまでの経緯をちょっと長く語ります。

2008年だか2009年だかに、著者フランク・シェッツィングの前作「深海のYrr」を読みました。

その数年前、ダ・ヴィンチ・コードがかなり話題になりました。

私も大ハマりし、著者ダン・ブラウンの作品を全部3周ぐらい読んで、次回作はまだかとずっと待っている状況でした。

当時は作風を真似た小説がたくさん出て、話題になっているものはだいたい読みました。(だいたいハズレだった)

その中で、「ドイツでダ・ヴィンチ・コード超え!」みたいな広告を見てこれはと思い本屋に観に行くと、600ページぐらいの露骨に分厚い本で上中下巻というボリューム感でこりゃあ楽しめるぞと買った小説がありました。

それが深海のYrrです。

実際にその分量通りの壮大なスケール、そして同時に個々人の内面の掘り下げも惜しげもなくぶちこんでくるミクロとマクロ全てを描き尽くす作風が特徴ですね。

登場人物があまりにも多く、巻頭に毎回人物のリストが書かれています。(助かる)

また科学的な面での正確性の取材がしっかりなされている(であろう)詳細な描写も大きな特徴です。

ちなみに当時から映画化の話はありましたが十数年越しにhuluでドラマ化されているらしいです。キムタクも出てるらしいですね。

www.banger.jp

ちょうどLIMITの1巻を読み終えるぐらいのタイミングで偶然ニュースを見かけました。本当に偶然です。運命感じますよね?

で、その作者の次回作が今回紹介するLIMITで2010年に日本では発売されました。

今回は600ページの全4巻でもほや上中下という分け方すらも超えてしまった様子や、そのあらすじの「宇宙エレベータ」「月面基地」「ヘリウム3」「核融合」をみてウッキウキで購入しました。

しかし当時は高校3年生で大学受験を控えており、読むのは終わってからにしようと積んでいました。

そして大学に入学できたのですが、読む習慣がなくなってしまいました。

これまで、通学の電車が1時間以上あったのでそこで本を読んでいたのですが、大学の近くに引っ越したためその時間がなくなってしまったのが原因です。

それ以来、他の小説を読んだりはちょくちょくあったのですがこのLIMITだけはずっと放置しており気がつけば13年が経っていました。

それが、この間読書メーターのアカウントを作成して積読の棚卸したときにまた存在を意識し始め、また読みたくなった、という感じです。(実はどこかの時点で最初の200ページだけ読んでいた)

今読んだ、ということ

小説の舞台は2025年で、執筆当時は2009年なので「15年後の世界」が描かれているわけですが、気がつけば今2023年です。

物語の中では、普及はしておらずまだ一点物ではあるものの宇宙エレベータが実用化され、その終着点にある巨大な宇宙ステーションからは月へのシャトルが発着しています。

月面にはアメリカや中国の基地があり、そこでヘリウム3の採掘を行っています。宇宙エレベータでは人だけでなくそのヘリウム3も運搬しているわけです。

そして、そのヘリウム3を使った核融合発電も実用化され、それにより「まだ枯渇していないにも関わらず」化石燃料の需要が急減している世の中が描かれています。

また、これらの技術革新はすべて民間企業が主体で行なっており、国主導の宇宙開発はもう限界がきている状況も描かれています。

宇宙エレベータの話は出版当時ほどは聞かなくなりましたが、中国の台頭や民間企業による宇宙開発など、当時はまだあまり意識されてこなかった今見れば「予言」のような描写もあります。

VRやAIのコンシェルジュ?みたいなのは作品内の扱いだけ取り出すとSFそのものでしたが、元にVRはゲームで普及していますしChatGPTを筆頭に「AI」というものももうほとんど現実です。

その一方で移動手段は相変わらず車・電車・飛行機・船で、宇宙エレベータはもちろんのこと空飛ぶ車も実用化されていません。

(追記)ちなみにググったらこんな記事が出てきました。2007年の記事です。

wired.jp

中身の話

お話の構成としては、主に3つの舞台があります。

まずは民間企業で宇宙エレベータから月面基地、ヘリウム3採掘設備と核融合炉を成功させた巨大企業オルレイ・エンタプライジズのトップ、ジュリアン・オルレイが世界中から厳選したエグゼクティブを二週間の月面旅行に連れて行きます。

月面には月面ホテルがあり、いずれは民間人も宿泊できることを目指していますが、まずはプレオープン的な感じです。

世界中の金持ちを招待したのは、出資を決意させるためです。そのために世界一の富豪であるジュリアン・オルレイ自らが同行するわけです。

それと並行して、上海でサイバー犯罪を専門とする探偵のオーウェンジェリコが中国の反体制運動に関わっている娘、瑶瑶が失踪したので探してくれ、という依頼を受けます。

さらにまた別で、カナダでは環境保護関連の取材をするジャーナリスト?のロレーナ・ケオワが、石油会社の幹部ジェラルド・パルスタインが暗殺未遂にあった事件を調査します。

それぞれの舞台での話の進展や、この3つのお話がどう繋がっていくのか?というところに注目して読み進めていくことになります。

月面ツアー組は宇宙エレベータの地上施設がある赤道近くのラス・エストレージャス島に集まり、そこにあるホテルで歓迎されます。(金持ちなので)

そこから宇宙エレベータで宇宙ステーションへ行き、そこで一晩過ごしたあとにシャトルで月に行き、月面ホテルに宿泊しながらもヘリウム採掘施設などを見学するという行程に沿って進んでいきます。

宇宙エレベータに併設されたホテルや、宇宙ステーション、月面ホテルなど、ゆくゆくは民間人も宇宙旅行できるようにしたいという意図で開発がなされている点も注目ですよね。

一方、上海で行方をくらました瑶瑶を探すジェリコ編はいかにもなサイバーパンクといった感じですがそれを東京ではなく上海でやっている点はやはり時代を感じますね。

探偵のジェリコがいろんな手がかりをもとに瑶瑶を探す一方で、謎の殺し屋のケニー辛も彼女を探して動き始めます。

文量的なところで言うと、月面ツアー編は序盤の月に到着してから、終盤まであまり動きがないのが気になりました。その分終盤はほとんど舞台が月面になるのでトータルでのバランスは取れているのですが…。

中盤はほとんどジェリコとケニー辛の追跡劇です。ハラハラドキドキではあるのですが、「…月は?」と時々思ってしまいます。

なんとなくこのノンストップの追跡劇はダ・ヴィンチ・コードのシリーズを彷彿とさせますね。

また、月面ツアーと話が繋がってくるのもかなり終盤です。

カナダのパルスタイン暗殺未遂を調査するところはほとんどおまけぐらいの分量です。

パルスタインはもともと月面ツアーに招待されていた一人でしたが、直前で暗殺未遂に遭い一命は取り留めたものの宇宙旅行は無謀だということで地球に残っています。

その点では月面ツアー組との関連がかなり早期から明示されているのですが、各チャプター(数百ページ)の最後でちょっと動くぐらいでなかなか進みません。

あと、モノローグも長いですが会話シーンもとても長く、一人のセリフが長いときもあれば会話のラリーが延々と続くこともあります。

微妙に苦労したのが、ベタな感想ですが誰が喋っているセリフかわからなくなるという点です。

特に瑶瑶とジェリコの会話です。瑶瑶は女性なのですが、勝気なキャラを出すためか度々「〇〇なんだろ」みたいな男っぽい言葉遣いになっていてちょっと混乱します。

まぁ大体わかりますけどね。

社会派、SF、サイバーパンク、その辺りを濃密かつ圧倒的な文量で味わえる作品です。

読み終えた達成感もありますが、ドラマ1本一気見した感覚に近い没入感があります。

文章自体は爆速で読める、変なクセのない良い文章ですので、長編好きの方は挑戦してみてはいかがでしょうか。

あまりにもたくさんの情報を浴びてしまい、まとまった文章としてアウトプットするのが大変でめちゃくちゃとっ散らかった文章になってしまいましたが、一旦こんな感じで…。